イギリスとフランスのアンティークの違いについて
MALTOのアンティーク、ヴィンテージは主にイギリス、フランスを中心に買付けを行っています。
"西洋アンティーク"とひとくくりにされがちですが、同じようなプロダクトでもデザインや素材、歴史背景など様々な違いがあります。
両国は隣接しているということもあり、それぞれ影響を受けたようなものも多々見られるのですが、代表的な「ヴィクトリアン様式」と「ロココ様式」を比較しながら、ざっくりとした見分け方をご紹介できたらと思います。
イギリス生まれの「ヴィクトリアン様式」
英国特有のスタイルであるヴィクトリアン様式とは、ハノーバー朝・ヴィクトリア女王(在位1837-1901)時代の建築・美術・工芸様式のことです。産業革命以降、世界の「工場」として大英帝国が飛躍的に繁栄した時代に、その栄華を世に示すがごとくこの様式は発展しました。
華やかで装飾的なデザインが特徴であるヴィクトリアン様式が発達した19世紀。 ヴィクトリア女王の治世時代のイギリスは、古代ローマ帝国以上に植民地を広げ、大英帝国として最も栄えた時期を迎えていました。
ヴィクトリアン様式は1837年から1901年までと他の様式に比べに長く、63年7ヶ月という時の流れの中でさまざまな過去のデザインがリバイバルし、自由に組み合わされた時代です。今まで貴族や上流階級などの一部の階級のために作られていた様式家具はなくなり、一般市民向けに家具や食器、銀器、小物などが作られていきました。
大きな戦争のなかった時代であったからこそイギリスが最も繁栄することができ、上流階級だけではなく一般家庭向けの家具や日用品にも様々な装飾様式が取り入れられ、発展していきました。
フランス生まれの「ロココ様式」
ロココの語源は、バロック式庭園に見られる洞窟の「岩(ロカイユ)」や「貝殻」の装飾に由来します。「ロココ調」の家具は、植物の葉のような曲線を多用したロカイユ装飾を特徴とし、優美さと繊細さが魅力です。
ルイ15世の愛妾ポンパドゥール夫人の時代を「ロココの華」と言い、ルイ16世の王妃マリー・アントワネットを「ロココの女王」と称すことからも、「ロココ調」がフランス宮廷のサロン文化を彩る装飾様式だったことが分かります。
バロック様式特有の、天使や植物や貝などのモチーフは引き続き使用され、同時にストライプや花柄など、女性的な可愛らしいデザインも流行します。黄金の輝きに負けじと華美な色が好まれたルイ14世の時代に比べ、色づかいはやわらかなパステル調へと変化し、シルクのテキスタイル産業の発展もあって、インテリア全般がソフトでフェミニンな印象になります。
ティースプーンをくらべてみる
手軽で分かりやすいのは、シルバーのスプーンかもしれません。
フランス生まれのスプーンとイギリス生まれのスプーンをくらべてみました。
フランス製のシルバースプーン。例に出したスプーンは表は控えめ、裏にはロカイユ装飾が施されてあります。
イギリスは表面だけの装飾が多いですが、フランスは表裏両方に装飾があるものが多いイメージです。
それもそのはずホールマーク(シルバーの品質、スミス、年号などを示す刻印)の場所がすくう部分に施されているので、ハンドルも遠慮なく装飾できるわけですね。
【イギリス製シルバースプーン】
おなじみイギリス製のシルバースプーン。代表的な「キングスパターン」というシェルをモチーフにしたスタイル。
シェル?あれ?貝のモチーフはフランスの「ロカイユ」では?と思った方もいますよね。
このキングスパターンはフランスのロカイユから影響を受け誕生した、いわば”英国解釈のシェル模様”。
左右対称なそのさまはまさしくイギリス!って感じです。
19世紀頭~ヴィクトリアン時代まで流行し、現代でも伝統的なパターンのひとつとして残っています。